上司は優しい幼なじみ

「陽菜はどれ食べようとしたの?」
たっくんの後ろに並んでいた私の手を引いて隣に立たせる。

「えっと…普通のやつ。牛丼の並」

すると、あらかじめ選択されていた牛丼に加え、もう一つ牛丼の並のボタンを押し、お金を入れた。

「あ、払うね!」

「いいってこのくらい。じゃあ陽菜は水持ってきて」

「あ…ありがとう」

おごってもらうのを申し訳ないと思わせないように、小さな役割をくれたんだ。
優しさを噛みしめながら、グラス二つ用意した。


テーブル席が空いており、向かい合わせに座る。
財布を開いて、たっくんの目の前に鍵を差し出した。

「たっくん。本当、ありがとうございました。ご飯ももらって、シャワーも浴びせてもらって」

「いえいえ」

たっくんは鍵をキーケースにつけなおした。
しっかりした皮で、どこかのブランド物だろう。
持ち物ひとつひとつに品があり、大人っぽさを感じる。

「たっくんの部屋って、シンプルで落ち着いていて、大人の男の人って感じだね。子供のころの部屋、玩具いっぱいだったからギャップに驚いちゃったよ」

するとたっくんは「水ありがとう」とグラスに口をつけ、一口飲む。

「もう、さすがにね。もうすぐ30だし」

「でも、大人でもそういうの好きな人いると思うよ?」

たっくんは白い歯をチラリと見せる。

「また集めたくなったら集めるかもな」