上司は優しい幼なじみ

私が会社を出たときはまだたっくんはいたはず。
たぶん今日も車だから、出てしまっていたらアウトだ。

急いでスマホを取り出し、電話をかける。
3コールで声が聞こえた。

『もしもし?どした?』

「あ、たっくん?もう帰っちゃってる!?」

『今から出ようとしてたところだけど、どした?』

その言葉にほっと胸を撫でおろした。
よかった…鍵返せる。

「あの、たっくんの部屋の鍵、直接返したほうがいいと思って持ってきてたんだけど、返すタイミング逃してて…急いで戻るから、待ってて!」

『あ、ちょっと待って!陽菜、今どこ?』

「駅前の牛丼屋…」

『わかった。俺がそっちまで行くから、店前で待ってて』

私の返事待たず電話が切れた。
返し忘れた私が悪いのに…本当、優しい人だ。


しばらくすると、隣の駐車場に車が止まった。
運転席の窓が開くかと思い近くまで駆け寄ったが、ドアが開いたため少し後ずさる。

「もう牛丼食ったの?」

「あ、ううん?食券買おうと思ったら鍵のこと思い出して。財布に入れていたから」

「そっか。じゃあ一緒に食う?」

自然な流れでそう言われ、少し期待していたとはいえ、たっくんからそう言ってもらい嬉しさが顔に出ていたと思う。

「う、うん!」

わざと鍵を返さなかったわけではないけれど、結果的にこういった状況になったことに、ナイス自分!と思う。