上司は優しい幼なじみ

「はい、以後気を付けます。本当に申し訳ございませんでした」

深く深く、頭を下げた。
何かうまくいったかと思えば、こういう初歩的なミスをするなんて。

一人前への道は遠く遠く険しそうだ。



*


「はぁ…」

ガヤガヤした店内。

駅前の牛丼屋の券売機に並ぶ。
仕事終わりであろうサラリーマンたちが多く、各々顔に’疲労’’商談成立’など文字が書かれているように見える。

お疲れ様です…皆さん。

女性は私ひとり、並びながら深くため息をついた。

ミスを引きずるのは次の仕事に影響きたすからよくないのはわかっているのだけれど…
今回のミスは社外の人も巻き込む事態だし、情報漏洩になってしまう。
あのあと山本さんに言われたんだ。

’忙しい時こそ冷静に’って。

まさに、その通りだと思った。
急いでやって業務の質を下げるべきではない。

…しっかりしないとなぁ。


いつの間にか目の前に人はいなくなっていた。
慌てて券売機の前に立ち、牛丼の並盛をイートインで選んで財布を開いた。

見慣れないカギが目に入り、はっと思い出す。

「あ、たっくんの部屋の鍵…渡しそびれてる」

いけない、これじゃあたっくんが帰れないではないか!!
呑気に牛丼買っている場合じゃない!!

券売機の画面のキャンセルボタンを押して店を出る。