上司は優しい幼なじみ

思考が止まり、身動きできずにいると、横からたっくんがデスクに手をつき乗り出すようにして画面を見た。

「先方からの連絡は?」

「いえ、まだないです…」

するとたっくんはジャケットの内ポケットからスマホを取り出し、操作しながら言葉を続ける。

「誤送信した坂本さんにはメールを削除してもらうように俺から連絡する。そしたら言うから、岡田さんからもメールで謝罪送っといて」

「わ、わかりましたっ」

たっくんがその場で電話をかける。
コール音がここからも聞こえ、しばらくして威勢のいい男性の声がした。

「お世話になっております、フリースタイルの大川です。先ほどうちの岡田から送ったメールですが…---」

爪が食い込むくらい手をギュッと強く握った。
取引先を巻き込むミスなんて許されない…

自分が情けなさ過ぎて、たっくんに尻ぬぐいをさせてしまったことが申し訳なくて、涙が溢れそうだった。


「はい…はい。申し訳ございませんでした。はい、宜しくお願い致します」

電話を終え、たっくんがゆっくりと向き直る。

「俺が電話して初めて気づいたみたい。さっき削除してもらったよ」

「…申し訳ございませんでした!すぐに私からもメールを送ります!」

「うん。あと、あっちの坂本さんにももう一度送り直しといて。忙しいと思うけど、メール作るときは宛先しっかり確認すること」

スマホを内ポケットに戻しながら表情を変えずに言う。
怒鳴ったりはしないけれど、私だけではなく誰かに指摘するときはこうして真剣な顔で落ち着いて話す。
言われるこちらも改めて自分のミスに冷静に向き合うことができる。