上司は優しい幼なじみ


「…岡田さん?」

私を呼ぶ優しい声に顔を上げた。
そこにいたのは、心配そうに見つめる半田さんだった。

泣き腫らしてぐちゃぐちゃの顔が恥ずかしくなり、思わず手で顔を覆う。

半田さんは近くに来て腰をかがめ、目線を合わせる。

「…大丈夫?」

いつも明るくて声の大きい半田さんが、こんな優しく話しかけてくるなんて。
一人でこの感情に整理をつけることが難しくなり、目に入る半田さんのスーツの裾を片手でつかんだ。

「…今日、飲み付き合ってくれませんか?」

お酒を飲んで、何もかも忘れたい、そんな気分。
中途入社の私にはあいにく同期がいない。
周りとはそれなりにコミュニケーションをとっているけれど、こういったプライベートな話をできるのは今のところ半田さんだけなのだ。

「おう、いいよ。この前のところでいい?」

「はい」

「じゃあ、店で待ち合わせってことで」


そのあと、何とか気持ちを切り替えて残りの業務を終えた。
その中で、たっくんの確認印をもらわないといけない書類があったのだが、急ぎではなかったのでこっそりしまった。
さすがに今は顔を合わせづらい…