上司は優しい幼なじみ

「そんな顔…しないでよ」

どんどん自分が惨めになるだけじゃん。
何かを言われたわけでもないのに、その表情が全てを物語っている、そんな気がした。

でももう、誤魔化せない。

「ごめんね、急にこんなこと。でもね、好きなんだ。前に居酒屋で酔った勢いで言ったときは、たっくんが初恋だったから思わず口に出しちゃったんだけど、今でもやっぱり好きみたい」

無理やり笑顔を創りながらも、それとは反比例するかのように涙が頬を伝う。
視界がぼやけ、たっくんがどんな顔をしているか今はわからなかった。

たっくんの低くて落ち着いた声が上から降ってくる。

「…ごめん、陽菜。今その気持ちに応えることはできないんだ。ごめん、でもっ…」

「だ、だよねー!!わかってたよ!!たっくんには山本さんみたいな、美人でバリバリ仕事できる人がお似合いだって。ほんと、ごめんね。困らせるつもりはなかったの!だから、忘れて!」

彼の言葉を遮るように言い、降りてきた非常階段を駆け上がった。
重いドアを開け、ゆっくり閉まろうとするそれに体重をかけ寄りかかった、
ガチャンと大きな音を立てて閉まる。

周りに誰もいないのをいいことに、声を出して思い切り泣いた。
私、終わったんだ。何もかも失ったんだ。