上司は優しい幼なじみ

我慢していた涙が一気にあふれ出た。
ひとつの商品が生み出されるその裏には、こういった敗北感を味わう人もいるんだ…

「…陽菜」

声のするほうをゆっくりと振り返る。
そこには、慌てて追ってきたのか、肩を大きく上下に揺らすたっくんの姿があった。

目をそらし、わざとらしく声を張り上げた。

「係長、まだ…業務時間中ですよ?」

まるで、山本さんを下の名前で呼んだ時のような焦った顔。
もしかしたら、私も山本さんみたいに、大切に思ってくれているのかな、なんてね。

「あ、そうだな…悪い」

珍しい。取り乱したような姿を見せるなんて。

「でも、どうして途中で抜け出したりしたんだ?」

声が上司の’大川係長’に戻った。
怒っている…よね。

だけど、倒れこむ私を立ち上がらせるために手を引くその力は、頼もしさがありつつも優しく感じた。

もう、無理だよ…止められない。


「どうせ私なんて…山本さんには勝てない。仕事でも、たっくんに対しても」

偉そうに息巻いたくせに、自分も下の名前で呼んでいた。
我儘で、まるで子供。

「…俺が?」

一瞬、彼の目が泳いだのが分かった。
それを見た瞬間、私は彼の胸に顔をうずめた。

「たっくんは、山本さんみたいに仕事ができる人が好きだって知っていた!だから私、せめて仕事でたっくんに認めてもらいたくて頑張った!でもやっぱりダメだった…こんな私が今たっくんに告白したって、応えてくれないでしょ!?」

誰もいない非常階段の空間に私の声が響き渡る。
沈黙を貫く彼を不安に思い、はっと我に戻ったかのように体を離し、顔を上げた。

彼の表情を見て、心臓がきゅっと苦しくなった。
だって、見たこともないくらい、困った顔をしているんだもん。