上司は優しい幼なじみ

「陽菜、よく聞いて?」

項垂れる私の両肩をつかむ。
そのまま両手で頬を包み、顔を上げさせた。

目の前には優しくも真剣なまなざしをした彼の姿。
あぁ、ダメ…こんなシチュエーションさ。我慢できないじゃん。

じっと見ていられなくなり、思わず目線を外す。
というか、こんなところ誰かに見られたら絶対誤解されるって!

そう思いながらも彼の手を振り切ることも、離れることもできなかった。
だって、好きなんだもん。

「陽菜?俺は君の案が素晴らしいと思ったからもう一度チャンスを与えたんだ。だから全力で頑張ってほしい。結果がどうであれ、君にとって絶対にプラスになるから」

「たっくん…」

そこまで私のことを評価してくれていたなんて思わなかった。
彼の口から直接ちゃんと聞くのは初めてだったから。




「EC事業部に行ってくる」とフロアを出たたっくん。
一緒に帰りたかったな、なんて思いつつ、さっきの出来事を思い返し、頬に手を触れる。
まだほんのりと温かさが残っている。
自然と顔が綻び、意気揚々と会社を後にした。