上司は優しい幼なじみ

「まったく、君は大人になってもドジだな。今給湯室から布巾持ってくるから」

慌てる私とは対照的に、とても冷静なたっくん。

そういえば、あの時も…
給湯室で私がコーヒーをぶちまけたとき、床を拭くのを手伝ってくれたんだっけ。

フロアを出ていく彼の背中を見つめながら、そんなことを考えていた。

布巾を持って戻ってきたたっくんは、淡々とデスクの上を拭く。
いくら仕事を頑張ったからとはいえ、元の性格がこんなドジじゃたっくんと釣り合う女性にはなれない。

はぁと肩を落とすと、たっくんは私をちらっと一瞥して、またデスクに目を落とした。

「大丈夫。最近の陽菜の頑張りは俺もよくわかっているから。明日、頑張って」

…違うんだけどなぁ。
私が悩んでいることと、たっくんが考えていることが違う。

きっと、私が好きだってことなんて、気づいていないのだろう。
たっくんと山本さんの関係が私の心をえぐっていたなんて、きっと、知らない。