上司は優しい幼なじみ

「お互い好きなのに…お互いの為に離れたってことです…よね」

半田さんは何も言わず、静かにうなずいた。
私は崖に突き落とされたような気分に陥る。

大学からの片思いで、会社も追っかけて入社して、やっと付き合えて…
でも、お互いを思って別れを決断し、今も同僚として働いているんだ。

たっくんにそんな過去があったなんて、想像していなかった。
そこまで大好きだった人がいたなんて、想像していなかった。

いや、違う。
きっと今でも好きなんだ。


’美子’


またあの場面が脳裏に浮かぶ。

「美子って…」

「え?」

「たっくん、この前山本さんが会社で倒れた時、美子って呼んでたんです。公私混同しない彼が、職場で山本さんのこと、下の名前で呼んだんです」

半田さんの前で’係長’ではなく’たっくん’と呼ぶことにもはや抵抗もなにもなかった。
ただただ、溢れる感情をそのまま言葉にしないと、心が壊れそうだった。