「びっくりした。何だよ。」

並んで歩き出すと 亮太は 照れた顔で言う。
 
「みんなが 中村君のこと 見たいって言うから。」

私はまだ 亮太と呼べない。
 


「みんな 普通の子だね。悪そうじゃないじゃん。」

と言う亮太。
 
「うん。普通だよ。心配した?」

と私が聞くと 亮太は 私の頭を 軽く小突き
 
「退学になりそう とか言うから。お前 どんな友達と つるんでいるのかと思った。」

と笑った。
 

「あっ。また お前って言った。」

私の言葉に

「お前だって さっき 中村君って言っただろう。」

と亮太は膨れる。
 
「何か、恥ずかしくて。」

と言う私に、亮太も頷く。
 

「中村君が 先に呼んでよ。そうしたら 私も呼ぶから。」

並んで歩きながら 私は 亮太を見上げる。
 

「ずるいよ。じゃ、ジャンケンな。」

そんな会話も 少し甘くて。

私の頬は 熱くなる。
 


亮太は 駅から 少し離れた ドーナツショップの前で 足を止める。
 
「ドーナツ食おうよ、ヒロ。」

入口で私を見る亮太。

名前を呼ばれた私は 告白された時よりも ドキドキしてしまう。
 
「うん。いいね。リョウ。」

お返しに 私も名前を呼ぶと 亮太は 顔をクシャクシャにして笑った。
 


恋の始まりは 甘くてぎこちない。

初めての恋だから。


多分、二人とも。


何の駆け引きもできなくて。

思いだけを ぶつけ合う。