始業式の朝、校門の前で 美佐子は 信太郎と話していた。

信太郎は、朝 校門に立って 登校指導をしていた。

「おはようございます。」

と言って、二人の 横を通り過ぎる。

私の腕を 美佐子が掴んだ。


「ちょっと、待ってよ。」

と言った後で、

「じゃ、先生、よろしく。」

と信太郎の顔を見て、美佐子は 歩き出す。
 


「ねえ、もう言ったの?」

私は 驚きを隠して、小さな声で 美佐子に聞く。
 
「うん。でも失敗だった。生徒指導室って言われた。」

美佐子は、ため息をつく。

「えっ。何で。いいじゃん。」

私には、何が失敗なのか わからない。


「駄目だよ。あんな所。いつ 誰が入って来るか わからないでしょう。放課後、信太郎の車に乗らないと。」

呆れた声で、美佐子は説明する。

私は 驚いて
 

「まさか、美佐子。そのまま、車の中で 何かするつもり?」

と聞くと
 
「まさか。もう、浩子は 本当に子供だなあ。最初は、軽くドライブするんでしょう。手くらいは 握らせてもいいけど。」

美佐子は得意気に言う。


私は、驚いた顔で

「へえ」

と頷くことしかできなかった。