「私さ、色々 考えたんだけど。相談があるって言って、信太郎と二人きりになるのが、一番 自然かなって思うんだ。」

煙草を 1本 吸い終わると、美佐子は言った。
 
「美佐子、今度は 何企んでいるの。」

私達の前に、コーヒーを出しながら 拓巳先輩は言う。

熱いコーヒーは、良い香りで 私達を包む。
 

「ちょっとしたゲーム。」

美佐子は、笑いながら 拓巳先輩に言い、
 
「で、浩子は、私がうまくいったら 同じ手を使えばいいよ。」

と私に言う。
 

「私、いいよ。藤田に 片思いすることを 楽しむから。」

私は 臆病に首を振る。
 
「ダメダメ。そんな事 言っていると、いつまで経っても 浩子 処女のままだよ。」

美佐子の言葉に、
 
「バカ、美佐子、ヤダ。」

私は 拓巳先輩の目を気にして 慌てて手を振る。


拓巳先輩はカウンターの端で、椅子に座って 雑誌をめくっていた。
 

「信太郎も藤田も、結婚しているんだよ。そんなに簡単に、私達の手に乗るかな。」

ケラケラ笑う美佐子に、私は 真剣な目で言ってみる。


「だから 浩子は 子供なんだよ。男なんて、結婚していても いなくても、同じだから。逆に、結婚している方が、心配ないよ。のめり込まれないから。」

美佐子の言葉を、私は 驚いて聞いていた。

美佐子は 今までに、どんな経験をしてきたのだろう。
 


拓巳先輩が淹れてくれたコーヒーは、ほろ苦くて 大人の味がした。
 

その後、美佐子の進めるまま、私は 2本煙草を吸った。


もちろん、吹かしただけだけれど。

最後の一口を、軽く吸いこんでみる。

それは、重く肺に圧し掛かった。



でも、私はむせなかった。