期末試験が終わると、学校中がソワソワし始める。

卒業、進級、クラス替え。

私達の一年は終わる。
 


美佐子は、玲奈先輩と一緒に 産婦人科に行った。


「来週の水曜日、手術だって。」

美佐子は平然と言う。
 
「美佐子、大丈夫?」

典子が聞くと、
 
「仕方ないよ。運を天に任せる。」


いつになく、古風なことを言う美佐子。

きっと 美佐子だって 不安だろう。
 

「どんな病院?信用できるの、そこ?」

私の言葉に
 
「M市の、個人病院だよ。玲奈先輩の知り合いも そこで手術したこと あるらしいから。大丈夫じゃない。」


卒業式が終わった玲奈先輩は、手術の日も 美佐子に付き添ってくれるという。
 
「名前 嘘書いても、保険証も身分証明書も何も見ないし。中絶の同意書も 適当に書いて ハンコ押してあればいいし。簡単に手術できるんだよ。」

サラッという美佐子。
 

私達は 黙って顔を見合わせる。

美佐子に かける言葉が 見つからなくて。


みんな、気付いている。

美佐子は強がっているだけ。

平気な顔をしているけれど。
 


「美佐子、お金は大丈夫なの?」

手術には、10万円くらいかかるらしい。

そんな大金、私は どうすることもできないけれど。
 

「うん。私の通帳から 勝手に下した。」

美佐子は 笑いながら言う。
 
「何、それ。」

勝手に、という言葉に 仲間達は みんな驚く。
 

「私の名前で お母さんが貯めているの。通帳と印鑑の場所 知っているから。こっそり持ち出して 下したよ。」

武勇伝のように 得意げに話す美佐子。
 
「見つかったら 大変じゃないの。」

私の言葉に、
 
「仕方ないよ。手術できない方が 大変だから。」

と美佐子は答えた。