どんな風にできるのか、興味津々の父。

焼き上がりを、つまみ食いする兄。

デコレーションが雑だと笑う母。


お菓子の匂いに 家族が集まることも 少し嬉しかった。


「これで ホワイトデーは 新しいバッグを 買ってもらえるよ。」

と高級なチョコを 見せる美佐子は 昨夜 私が感じた ほのぼのした幸せを知らない。
 

大人っぽい美佐子に憧れて。

ずっと 背伸びしたいと 思っていたけれど。


その時 私は初めて 美佐子に同情した。
 


昨夜の、ザワザワしたリビング。

普通の家族。


不格好でも 多分亮太は 手作りを喜んでくれる。

普通の彼。
 


どうして美佐子は そういう幸せから 目を逸らしてしまったのだろう。

無理しなくても いつか大人になるのに。

なぜ、急いでいるのだろう。
 


美佐子が 少し寂しそうに見えたのは 多分、無理しているから。

中身は 私達と同じ。



ただの16才だから。