こっそりと奥から抜け出す。

この邸の姫君だと、気が付かれなければ問題はない。

女房が一人、邸内を歩いていたって、おかしくはないはずだ。

大君は歩きだす。

「この邸の桜は、美しい」

何方か、聞いたことのない声がした。

「でしょう?父上もご自慢なのですよ、こちら」

兄の声がした。
隣には、同い年の異母弟がいる。