「穂乃花?」

この声は!

後ろを振り返ると今にも泣きそうな瑠衣の姿があった。

「瑠衣! 一緒に帰ろ?」

「嫌だ」

いつもだったら「いいよ」と言ってくれるのに、断られたのは初めて。

「分かった。先帰るね」

今はなるべく距離をとろう。
これ以上しつこくしたらきっと嫌われてしまう。

「ごめん。待って……」

私の右腕を掴む瑠衣の手は、いつもより力がこもっていた。

「瑠衣?」

やっぱり今日は様子がおかしい。

「ごめんね。急にびっくりするよね」

力はさっきよりは弱くなっているが、まだ私の腕を掴む瑠衣の手は強い。

「怒らせちゃったならごめん。ちゃんと直すから……だから教えて?」

「じゃあ僕だけの穂乃花になって」

「瑠衣…だけの?」

「そう。僕だけの穂乃花になってよ」

私の目をしっかり見つめる瑠衣を見ると、真剣に言っているんだと思った。