すると、目の前から同じリズムを刻む足音が2つ近付いてきた。


「海くん、たっくん...」

「碧萌、本当に行くんだな」

「うん」


海くんがいつもより元気がない。

少しだけでも落ち込んでくれたなら私も嬉しいよ。

これで飄々としていられても虚しすぎる。


「碧萌、緋萌ちゃん、向こうでも頑張ってね。ただし、無理は禁物。何か心配事あったら言ってね」

「たっくん...ありがとう」

「ありがとうございます。お二人のお陰で頑張れそうです」

「じゃあ、私達間に合わなくなるから行くね。2人も元気で。あっ、あと、夏帆ちゃんをよろしくね。海くん、夏帆ちゃんを悲しませちゃダメだよ」

「んなの、分かってるよ」


私は3日前に出発日時を伝えたけれど、お別れの現実を受け止めると立ち直れなくなりそうだと夏帆ちゃんから返信が来た。

それでも私は会いたかった。

でも来れなかったなら仕方がない。

毎日メールを送って関係を途絶えさせないようにしよう。

そうしたら、夏帆ちゃんも安心するだろう。

私のこれまでの高校生活を夏帆ちゃんと一緒に過ごせて良かった。

心の中で言うね。

夏帆ちゃん...ありがとう。

私も頑張るから、夏帆ちゃんも元気に夏帆ちゃんらしく頑張ってね。

夏帆ちゃんにお別れの挨拶をした後、私は家族以外で一番長い時を共にした2人に大きく手を振った。


「じゃあね。またね」

「元気でな。いじめられんなよ!」

「碧萌らしく頑張れ!ずっと応援してる!」


2人からもらったものはエールだけじゃない。

ここに至るまでに何度も励まされ、助けられ、いつも笑顔をもらった。

笑ったり、泣いたり、喧嘩したりして私達は一緒に成長してきた。

これから先、家族以外で私を知っている人は誰一人いなくなるんだ。

ここからが本当のリスタートか。

その門出に彼は来なかった。

いや、来なくて正解なんだ。

私とは出逢わなかったと思って私のことなんか忘れて生きてほしい。

だけど、私は覚えている。

きっと、これからもずっと。

2度と会えない颯翔くんとの奇跡のようで刹那的だったあの日々を。

私は...忘れられない。

それでも、私は歩いていく。

次の出逢いを求めて。