そして、8月20日。

母方の祖父が運転して持ってきた軽トラに最低限の荷物を詰め込んだ。

私と緋萌は軽トラには乗れないので新幹線で向かうことになった。

18年住んだこの町ともこの家ともお別れだ。

この空も向こうの海も恐らくもう見ることはないだろう。

結局私は空についても海についてもなんの謎も解けずにここを去るんだ。

空はどこまでも繋がっている。

この地球上で生きていればどこでも空は見える。

だけど、この澄みきった青空を、海の青をもらい受けたような青空を、私は2度と見ることは出来ないんだ。

手でカメラを作り、瞳に焼き付け、シャッターを切る。

いつものように脳にレコードする。

そして、私の心にも...。


「お姉ちゃん、そろそろ行こ。新幹線楽しみだね。名前なんだっけ?」

「東北新幹線のはやぶさ」

「そうそう、それそれ。名前、カッコいいよね!宮城県の人達優しいといいね」

「うん...」


緋萌が無理に明るく振る舞い、私を元気づけようとしてくれているのが分かる。

こういう時、普通は姉が妹の悲しみを拭うのではないか。

本当に私は緋萌の姉なのだろうか。

姉としてしっかりしなければならないというのに、いつまでも落ち込んでいられない。

私は陽炎が揺れるアスファルトに足を踏み出し、歩きだした。