8月9日。

父は亡くなった。

出張先の福岡で事故に巻き込まれた。

近くを通りかかった通行人の証言によると、父は幼い姉妹を庇って信号を無視してきた乗用車に跳ねられたらしい。

直ちに葬式が執り行われた。

母には父から生前言われていたことがあった。

――葬式は家族密葬で静かに葬ってもらいたい。

――俺は最後に家族に会えればそれだけで幸せだから。


その遺言通り、自宅で私達と父方の祖母と母方の祖父母の6人とお坊さんだけの家族密葬となった。

私達は家を売却し、母の実家のある宮城県に引っ越すことが決まったため、仏壇は買わず、リビングの隅に置いたミニテーブルの遺影に手を合わせた。

遺影は私の高校入学、緋萌の中学入学の時に撮った写真だった。

遺影の父は...笑っていた。

娘たちの成長を遠くから見守ってくれるような優しくて穏やかで仕事熱心な真面目な父だった。


「お父さん...ごめんなさい。わたし、お父さんに酷いこと言った。だけど...だけど...お父さんのこと嫌いじゃなかったよ。大好きだったよ」


緋萌の言葉に周りにいた全員が涙を流した。

緋萌も悔しいだろうけれど、私も同じくらい悔しいよ。

あの日、もっと話していれば良かった。

その前だって帰ってきた時にはもっともっと一緒に過ごしたかった。

私という1人の命をこの世に送り出してくれた大切な父にもっともっともっと感謝して、ありがとうって言っておけば良かった。

後悔しても遅いと分かってる。

だけど、後悔していれば父が私の心にはまだいるって思えるんだ。

矛盾しているように思えるけど、私はこの後悔も父も忘れない。

決して忘れずに生きていくんだ。