この前日のこと。


午後11時過ぎ、眠気が絶頂で今にもベッドに倒れこみそうになっていたところで電話が鳴った。


誰からということも確認しないまま私は出た。



「もしもぉし」


「もしもし。片桐です」


「うえっ?!詩央くん?!」


「相変わらずうるさいな。鼓膜破れる」


「ああ、ごめんごめん。で、ご用件は?もしかして本当に付き合おうと思ったとか?」


「バカ!そんなわけないだろ。オレが君みたいなブスを選ぶわけがない」


「はいはい、すみませんでしたぁ。じゃあ何?」



電話の向こうで何やらガサゴソ聞こえる。


何をしているのだろう?



「オレ、来年からアメリカに行くことにした。歌もダンスもエンターテイメントも全部1から学習しなおしてオレにしか出来ないことをやろうって思って」


「そう...」



学校がバレて来づらくなってしまったし、転校くらいはするかと思っていたけれどまさかアメリカに行ってしまうとは...。


鼻の奥がつんとする。



「君が本当にやりたいことやって最高の夢見ようって言ってくれなかったら決心付かなかった。一応感謝してる」


「うん...」



感謝してくれても側にいないなら、私に恩返しなんか出来ないんだよ。


私は詩央くんともっと一緒にもっと近い距離で話したり、隣に並んで歩きたかったよ。


なのに...それなのに...勝手に居なくならないでよ...。



「それで、最後にお願いしたいことがある。これは君にしか頼めない。引き受けてくれるか?」



陽翔くんならこんな強引に、女子を傷つけることは頼まないだろう。


そういう不器用なところも私は受け入れたよ。


最後まで助けるって、守るって決めたから私はやる。



「うん。で、何?」