あの日を境に私と詩央くんの距離は一気に縮まった。


朝イチから来ていることはないから、だいたいは昼休みに踊り場で合流して遅めのおはようを言い合う。


そして淡々とお弁当を食べ、最後にコメントをくれる。


のだけれど...。



「今日はリクエストにお答えして肉巻き勉強...じゃなくて弁当です!」


「肉巻き勉強ってなんだよ。相変わらずバカだな」


「詩央くんも相変わらずの毒舌っぷりでいらして」


「別に毒舌じゃないだろ。言いたいことを言ってるだけ」


「いやぁ無自覚は困りますねえ。けっこうグサグサ言うからこう見えても傷ついてるんだよ」


「君はタフだから大丈夫。オレが保証する」


「そんな保証いらないよ」



これが詩央くんなんだ。


陽翔くんとは正反対の彼。


だけど悪い人じゃない。


むしろはっきりズバズバ言う正直者で良い人だ。


って最近は思ってる。



「今日の肉巻きについて」


「あっ、はい」


「肉がパサついてるのに、中がきんぴらだと口の水分が持っていかれる。あと、味が濃い」


「うちの母の出身が東北なもんで...」


「言い訳するな」


「きっびしぃ」


「厳しくしないといつまでも不味いままだからな。せめて万人受けする味にしないと」


「良かった点は?」


「特になし。あえて言うなら食べ慣れてきたから60点くらいの味に感じれることくらいか」



60点か...。


料理さえ赤点をギリギリ免れるラインなんて酷すぎるよ。


そこまで言うなら...。



「あのさ、1度家に来ない?お母さんの料理に文句つけたらただじゃおかないんだから!」


「は?」


「バッチリ変装すれば大丈夫。バレないバレない」


「君の家、おんぼろなんだろ。絶対嫌だ」



そっかぁ。


詩央くん、お坊っちゃんだもんね。


汚い木造アパートは可哀想だな。



「じゃあ、ピクニックしようよ。なんかそういうほのぼのデート憧れてたんだぁ」


「オレの仕事分かってるか?君が1番良く分かってるはずだ。そんなの許されるわけないだろ」


「つまんないのぉ」



せっかく仲良くなったというのにこんな場所でこそこそ会うだけなんて切ないな。


もっとなんというか、刺激的な恋愛になるかと思ってた。