「あの...その...」


「ニヤニヤするな、このブス女。そんな顔でオレのこと見てたら気づかれんだろ」


「ああ、ごめんごめん。分かってはいるんだけどねぇ、つい...」


「分かっていないようだから言ってるんだ」


「分かってるよ!私バカだけど善悪の区別はつく。陽翔くんのこと絶対に誰にも喋らないっ!」


「マジで約束しろ。それともう1つ。オレの本名は片桐詩央(かたぎりしおう)だ。間違っても陽翔くんと呼ぶな。分かったか?」


「分かった。...けど」



けど、なんで。


なんで陽翔くんはこんな感じなの?


いっつもニコニコ笑ってて、


いっつも全力でパフォーマンスして、


優しそうで、


神レベルにカッコよくて、


誰よりも歌が上手くて、


誰よりも努力家な陽翔くんは...


私の好きな陽翔くんは...


なんでここにいないの?


顔も声も全く一緒なのに...。


私の王子様...のはず...なのに...。



「なんで陽翔くんじゃないの?!なんで優しくないの?なんで笑ってくれないの?ねえ、なんで?!」


「何キレてるんだよ。これだから一般人は嫌なんだ」


「どういうことよ、それ?!」



陽翔くんはふっと笑って壁にもたれ掛かかった。


天井を見つめ辛そうに呼吸を繰り返す。



「アイドルに夢を抱きすぎなんだよ、君たち一般人は。オレは仕事と割りきってやってるんだよ。日常生活では如月陽翔じゃなくて片桐詩央として生きたいんだ。だから邪魔しないでくれ。ただそれだけだ。じゃ」