「夜の匿名SNSを見ていると悲しい気持ちと喜ばしい気持ちが交差するね。
こうやっていつでもどこでも自分達の考えを発信する事が出来るのは凄い便利だし凄い進歩だ。
でも逆にこんなに人がいる亜空間に依存しそうになる人間に悲しさを感じるよ。
これは昔から言われている事だけどね。
亜空間って言ったのはワザとだよ。」

「人は人が集まる場所に本当に行きたくて行っているわけじゃない。
タイムズスクエアはその代表格だね。
日本で行ったらスクランブル交差点かな。
みんな本当にそこに行きたいと思ってはいない。
自分がどこかのコミュニティの一員だと実感したいんだ。
『いや、違うよ。』という人がいるかもしれない。
『行きたくて行っているんだ。』ってね。
でもそれも僕から言わせれば間違っている。
彼らは気づいていないだけで、
自分というものを実感しに行っているんだ。」

「アイデンティティというものがあるよね。
彼らはそれを求めてそういう場所に行く。
さっきいったSNSなんかもそれだね。
SNSはもっと複雑なものがあるから一概にそうとは言えないけどね。
じゃあ、そういう場所にいった彼らはどうなるだろう?満足するだろうか?
アイデンティティを実感出来て満足するように思えるかもしれない。
でも実際は逆なんだ。
そういう場所にいっても何も産まれないんだ。
人が踏み尽くした大地に花が咲かないように、彼らには何も産まれない。
だけど彼らはそれを信じているからまたそこにいくんだよ。
恐ろしい事だね。」

「もちろん、一時的に開放されたかの様な気分にはなるよ。
でもそれは、そういう場所がみせている幻で実際には存在しない。
それを一度見てしまうと、それが幻だということも判断出来なくなる。自分ではね。
他人の介入によってやっと開放されるんだ。」

「選択肢の過多だよ。
選択肢が多すぎるんだ。
特に今の若者は、幼い時から色々な選択肢を見せられているよね。
一昔前よりは何倍も何十倍も多い選択肢をね。
選択肢が多すぎるとどうなると思う?
何も考えられなくなってしまうんだよ。
タンスに沢山服があるのにいつもない!と言っている人が良い例だ。
何も考えられなくなった若者達は
気づかないままさっきのような場所に行ってしまう。
これはまずい事だ。
大人達が軌道を修正してあげないと駄目だけど、大人達も気がついてないんだ。
どうしてそうなっているかをね。
理解できないんだよ。
ただ便利になったとしか考えていない。
彼らもまた選択肢に踊らされているのかもしれないね。」

「そうなると収拾がつかなくなる。
だから句読点を打つ必要があるんだ。
それが今回のコロナウイルスだね。
これはいい意味で災害だと思うよ。
僕達を人間たらしめるものが何か、
そこに赴かせるものが何か、
どう生きて行くかを考える時間としてね。
うん。僕は意図的だと思うよ。
沢山の人が亡くなっているけど、
未だ自分が死ぬと考えている人は少ないみたいだ。
人間としてそれは正しい反応だけど、
果たしてどうだろうか。
ここから何が起こるかは予想出来ない。
普通の人ならね。
僕はこの物語の結末を知っているよ。
でも言ってしまうと面白くないからね。」

「君たちは今日も
自由に発言できる場所や人の集まる場所に行くのかい?」