湖は相変わらず静かで無常にも時の経過を感じさせない。湖の畔に座り、考えることはクロウのことだけだった。この湖はクロウと出会うためだけに作られたものなのではないか。今にでも「アランっ」と森から出てくるのではないかと私は1日中茂みを見ている日々が続いた。
この世界は四季がないのか、かなりの時間を費やしたと思うがいつも秋の気候のように感じる。肌寒さは飲まず食わずの日常を楽にした。
数日後、いつものように茂みを見ていた。するとガサガサと揺れる。
「…クロウ?」
そんなわけがなかった。ぼうっとした目に見えたのは青いローブに身を包んだ魔道士と思われる集団だった。
(何を話しているのだろう。)
首をも持ち上げることの出来ないこの身体は抵抗ができない。ただの肉の塊だ。
午後の通り雨。白い息が舞い上がる。青い魔道士たちは私をどうするつもりなのだろうか。相変わらず視界が晴れない私の右の目に1人の魔道士が近寄ってきた。
「放っておいてよ」
声にならない声を魔道士に投げかけた。