恋泥棒の犯行予告


橘が断ったら俺がやらないといけなくなるかも。

私は受験勉強力入れないとヤバいんだよねぇ。

実際に口に出されたわけじゃないけど、こんな声が聞こえてくるような気がする。


「……わかりました。やります」


絞り出した声。響く拍手。いやいやそんな嬉しそうに手叩くなよ。

普段はよく助けてくれて優しいクラスメイトが、このときばかりは敵に見えた。


「橘さん、ちゃんと内申には書いておきますね」


担任から優しくフォローが入る。まぁ内申に書いてくれるならいいか……。内申点はあって困るものじゃないし、むしろ喉から手が出るほど欲しいものだ。


「ありがとうございます。ではもうひとり……」


生徒会役員がそこまで言うと、ゆるりと手が挙がった。男の子のそれはいかにもやる気なさげにふらふらと宙に浮いている。


「二神くん、立候補ありがとうございます。では普通科との合同会議はおふたりに任せるので、本格的に準備をする段階になれば発表をお願いします。そこで委員は交代しますので、よろしくお願いします」


ぱち、ぱちぱち。さっきほど音に元気がないのは最後のセリフが原因だろう。委員交代だって、やったね。


ばちり。

日世と目が合った。


にやりと笑うだけで、何事もなかったかのように前を向く。

クラスでの私と日世の距離感は微妙だ。

用があれば話すくらい。たぶん、みんなには付き合ってることバレてない。

わかんないけど。

私と日世が幼なじみだってことを知ってる人がまず少ないし。

だから、今みたいに「ふたりだけの空気」を学校で出されると、すごく弱い。


あーもう、耳まであつい。


初恋の熱に浮かされる女の子、みたいな自分が嫌になる。


あーあ。幸せだ。