「ねぇ六花。全く知らない人にこうされたらどうするつもりだったの?」
これまで無言を貫いていた日世が突然口を開いた。
部屋に闇が充満しているせいで、目の前の男が誰なのかも判別がつかない。
「ごめっ……なさ、い」
ヒナだってわかっているのに、怖いと感じてしまう。
「……たん、だ……」
泣いていることを悟らせないために左の壁側へと顔を逸らしたとき、小さな声が漏れてきた。
「心配、したんだ……。出ていったって聞いたとき、もう暗くて、どこにいるのか必死で探した。こわくて……」
小さく、震えた細い糸のような声が絶え間なく耳に流し込まれる。
責められるよりも、ずっとつらかった。
頭に血が上って、はやくお父さんの前から逃げ出したい一心で走っただけなのに。
それがこんなにも誰かの心を乱すことになるって、今はじめて気づいた。
「ごめん。もうしないから……」
「やくそくしてね。ぜったい」
さっきまでの棘が抜けた、いつものヒナが戻ってきた。
たらんとした、甘い声。



