「ごめん、大きな声出して……」

「あ、別に……。そんなに気にしてないし……」


彼が動く度に鼻を刺激する、強すぎる制汗剤のにおい。

加減をしろとあれほど言ったのに……。


「ねぇ圭斗、」


ひとつ、深呼吸をしたあと、立ち上がって何の装飾も施されていないつるりとしたスマホを拾い上げる。


「別れよっか」


静かな教室に響いたその声は、少しも震えることなく1mほど先にいる彼にまっすぐ届いた。


「え、……な、なんで……」


目を白黒させる圭斗。

口元は笑っているようで、不器用に歪んでいる。

もしかして、あの写真に写る人は圭斗じゃなかったのではないかという考えが、一瞬頭を掠めた。

もう一度深呼吸して、少し揺らいだ自分の気持ちを立て直す。