「どうして不安そうな顔するの?」
「……別に、不安そうな顔してない」

「愛佳は今日、俺に逆らえないんだよ。
だから正直に話して」

「えっ…約束って、今日に適用されるの?」



午後まで授業があったため、今日と言っても残り僅かだ。

てっきり休日にでも一日中言うことを聞かされると思っていたため、少し安心だ。


「愛佳の本音が聞きたいから今日にするよ。せっかくだから俺の家においで。テスト終わりの息抜きに」

「……うん、行く」


受験勉強にテスト勉強が被り、涼介と過ごす時間がさらに減っていたのだ。

今日だけは許して欲しい。



「俺ね、ずっと愛佳にして欲しいことがあったんだ」
「してほしいこと…?」


涼介の家に行くことが決まり、ふたりで駅へと向かう。
けれど涼介の言葉に少し嫌な予感がした。

言うことを聞かなければならないため、私に拒否権などないのだ。


「今日は愛佳から甘えて欲しいなって」
「えっ…?」


とんでもないことを言うのではないかと思っていたけれど、予想と違った。

甘えて欲しいって、つまり…?



「だから今日は恥ずかしがらずに俺に甘えてね」


ニコニコ笑う涼介は嬉しそうだ。
けれど私はまだ言葉の意味を理解しきれていない。

けれどその意味はすぐに理解することになる。


涼介の家の最寄り駅に着いてから、いつもはすぐに手を繋ぐのだが、今日はそれがなかった。

その時初めて言葉の意味を理解したのだ。


私から手を繋げということか。
つまり今日は全部私から動けということ?

それはそれで恥ずかしい。
そこまで甘える行為を私はしたことがなかった。