相当な実力者だ。
恐らく愛佳の家を特定されるのも時間の問題だ。

そのため寝る訳にはいかなかった。


愛佳は心配そうに寝ないのかと聞いてきたが、適当に嘘をつくことにした。


「まだ眠たくないんだ。ふたりは寝て大丈夫だよ。
電気、消そうか?」

「やっぱり私が床で寝る…」

「いいから。愛佳は白野さんと一緒に寝て?
冬じゃないんだし、俺は床でも平気だから」


愛佳は少し悩んだ後、素直に受け入れてくれた。

そして彼女は白野未央と一緒にベッドで横になり、しばらくすると互いに眠りについていた。


普段は綺麗だと言われる愛佳だが、寝顔は幼い子供のようだ。

明かりが睡眠の妨げになると良くないため、電気を消し、部屋の扉近くの壁にもたれた。



それからどのくらい経っただろうか。

小さな物音一つすら見逃さないため神経を尖らせていると、ふと違和感を覚えた。


気のせいだと良いのだが、一瞬空気が揺らいだ気がしたのだ。



「……」


息を潜める。
恐らく何者かが家に侵入しようとしているのがわかった。

ただ、その存在を確認してはならない。
ギリギリまで相手を誘き寄せる。


決して愛佳には指一本触れさせない。
もう二度と傷つけないように。

物音一つ聞こえない中、微量の空気の変化だけを頼りに───



「……無断で人の家に上がるのは失礼ですね」


暗闇の中を物音一つ立てずに歩く人物は、手に刃物のようなものを持っていて。

俺の視界に入るなり、その手首を掴んで部屋の外に連れ出した。


このようなことで愛佳の睡眠を妨げたくない。


「…っ」


だが予想していた通り、相手が簡単に捕まるはずもなく。

ほとんど何も見えない中、相手が自由の利く足を使って器用に俺から離れようとした。