「───俺の彼女に何か用かな」


その声が届くまで、私たちはその存在に全く気づかなかった。

柔らかな口調だったけれど、低く冷たさを感じる声には静かな怒りが込められていた。


さらに男の圧が、危険だと体が訴えるようにして震え始める。



恐る恐る顔を上げると、そこには笑みを浮かべるひとりの男が立っていた。


黒髪で眼鏡姿の、真面目そうな男だったけれど。

誰もが目を奪うほど美しく整った顔立ちをした男を見るなり、全身が固まって動けなくなった。


───この男は危険だ、と。

どことなく涼介と似ている雰囲気があった。
それも危ない雰囲気で。


「な、なんだお前…」


絡んできた男ふたりも、本能で危険を察知したようで。

思わず私たちから離れた。



「君たちが俺の彼女を泣かせたの?
ねぇ、それって覚悟できてる?」


穏やかな口調。
優しい笑み。

それ以上に恐怖心を芽生えさせるような“何か”が、男には存在した。


「べ、別に俺たちは…」
「おい行くぞ…!」


そんな彼に圧倒されたふたりは、すぐに背中を向けてその場から去っていった。

これは予想外の展開だったけれど、助かった───



そう思っていたけれど。

突然、泣きそうになっていた女の子が私の腕にギュッと絡みついてきた。


「や、やだ…」
「……え?」

明らかに彼女は目の前の男も拒否している様子。


「───未央、どうしたの?」
「…っ」


どういうことだ、これは。
男に名前を呼ばれた彼女は、ビクッと肩が跳ねらせた。


とにかく彼女が嫌がっているのはわかる。

もしかして、この男も彼女を傷つけようとしているのだろうか。

だとしたら見過ごしておけない。