「待って、これは相当…あ、負けた」

まるで対戦ゲームに負けたような言い方だった。


「なっ…!?
相手には翼よりも得意なやつがいるのか…?」

その言葉に驚きを見せた悠真くん。
これは相当な緊急事態のように思える。


「え、それって負けたらどうなるの?」

「こっちの情報抜き取られたり、あるいは特定されるだろうね」

「待って涼ちゃん、これやばいんじゃないの!?」


恐る恐る光希くんが質問したかと思えば、翼くんの言葉に驚いて涼介に話しかけた。

私もこれは一大事だと思っていたけれど───


「だから瀬野くん、あとお願いね」


その時、翼くんが立ち上がったかと思うと、涼介にパソコンを渡した。

あまりに突然の出来事で、ふたり以外の誰もが固まってしまう。


どうやら“その事実”は響くんすら知らなかったようで。
彼までもが驚いていた。



「……こんな堂々と渡されるとは思わなかったな」
「ほら、早くしないと相手に情報抜き取られるよ」


いつにも増して上機嫌な翼くんに、ため息を吐いた涼介。

かと思えば、素直にパソコンを受け取った。


まさかと思ったけれど、そのまさかであった。

パソコンの画面をじっと見つめ、翼くん同様に速いタイピングが目の前で繰り広げられる。


一体どういうことだ。

もしかして涼介は、翼くんよりもそれの扱いに慣れているというの?


「───うん、終わったよ。これで大丈夫」

さらに問題は解決できたようで、驚きを隠せない私たち。


「さすが瀬野くんだな。
久しぶりに見れて嬉しい」

ただ翼くんだけがその目を少年のように輝かせていた。


「もしかしてわざと負けたわけじゃないよね?」

「え、さすがにそれはしないよ。
早く瀬野くんを超えたい気持ちでいるのに」


まだ少し興奮気味の翼くんに対し、涼介は至って冷静だった。