「翼、偽名って?」


涼介が落ち着いた声で翼くんに質問する。
けれど涼介からは圧が感じられ、少し怖い。

きっとタダごとではないのだ。


「その佐久間って名前は偽物。本名は神田拓哉(かんだたくや)で…これは中々だ」


珍しく目を見開き、食いつくようにパソコンへと向き合う翼くん。


「噂、本当みたいだよ。
天帝の総長である神田拓哉は、神田組の若頭」

「なっ…!?」

悠真くんや光希くんが驚いたように声を上げ、さらには響くんまでもが目を見張った。


「確か相手は俺たちと同い年だったよな」

「嘘、高校生にして若頭ってやばくない…!?
ねぇ涼ちゃん!」


まさかの事態だ。

もし悠真くんの言葉通り、天帝の総長が私たちと同い年であるとすれば───


まだ未成年であるというのに、組の若頭を任されていることになる。

そんなの恐ろしすぎるのではないか。



「翼、わかる情報を教えて」
「うん」

けれど涼介だけは冷静だった。
目を見張ることなく、落ち着いて翼くんの話に耳を傾けている。


「神田拓哉は幼い時に母親を亡くしてるみたい。
それも自分の目の前で殺されたらしい」


翼くんの口から語られるのは、相手の総長の辛い過去。

思わず耳を塞ぎたくなる内容だ。


「相手はすごく重い過去を抱えているんだね」

「そうみたい。それで一時期、感情のない人間として生きてきたみたいだよ」


重い過去。
感情のない、人間。

何だろう、その言葉に少し引っかかるものがあった。