せめて騒がしければ、まだチャンスはあったというのに───



「俺!やっぱり愛佳先輩のことが好きです!
だから瀬野先輩に宣戦布告させてください!」


ああ、と思わず頭を抱えたくなった。
どこまでも純粋で真っ直ぐな男、それが寛太である。

教室に寛太の声が響き、多くの者が息を呑んだ。


「瀬野先輩の許可があったらいいんですよね!?」

そして何より単純なバカだ。
それは寛太の長所でもあり、短所でもあるから複雑だ。


「───ふはっ」

そんな寛太を見て、涼介は思わず笑みを溢す。
その笑顔に作られた様子はなく、自然だった。


「そっか、君はそう来るのか」
「瀬野先輩…?」

「うん、面白いね君」
「…っ、じゃあ許可を…」

「そうだなぁ、俺の前でなら良いよ」


また涼介も面倒になりそうなことを言う。
けれど寛太は嬉しそうに目を輝かせた。


「本当ですか!?あ、じゃあついでに愛佳先輩の落とし方を教えてください!」

「……何、君はバカなの?」
「はい!よく言われます!」


ああ、頭が痛い。
一応ライバル関係にある涼介に、普通そのようなことを聞くのか。

普段滅多に人を悪く言わない涼介ですら、寛太のことを『バカ』だと言ったのだから相当だ。


どうして私はまともな男には好かれないのだろうと思いつつ、今の状況にため息を吐く他なかった。