港町 グラフィティー

聡は運ばれたアイスコーヒーにミルクと
ガムシロップを放り込んで ストローもささずグビグビと飲み干す…
氷を砕きながら 聞こえないくらいの小声で
「悪りーけど 俺金持ってないから…」私の方を見ずに呟く。

「大丈夫…お金持ってるから…って昨日給料出たんだもん…泊まるとこなんてどこでもあったんだよね…フッフッフッ」と全然気にしていない風に答える。

聡は少しだけ顔を上げながら 大しておかしくもないのにヘラヘラと笑いながら
「考えもしなかったな…」と自嘲気味に言葉を濁す。

「俺行くわ…お前仕事行けよ…じゃぁな!」
返事する暇も与えないような勢いで聡がカランカランと出て行った。

隠し事をしてる時の聡は くだらない事をしゃべり続けるか 
日頃無口な聡の口をもっと重くするか 両極端で…
共通しているのは、私の目を絶対に見ない…事。
隠している事はいずれ聡自身の口から話すだろう…
隠し切る事も出来ないくらい情けない所がある…
付き合って一年近くなっている今となっては それも安易に予想できた。

夜中に女と乗ったバイクで捕まった時も 
飲み屋街で酔ってケンカした時も 
ディスコでシンナーを吸って地回りにヤクザに因縁をつけた時も…
数日たったら全て話して聞かすのだ。
聡の言い分は「こんな狭い街で お前は仲間が多いしきっといつか耳に入るんだから…その前に話しておくけどさぁ…」と繰り返す。