港町 グラフィティー

「なにしてんだ?」
振り返ると聡が突っ立ていた。

「ううん 何でもない…仕事に行かなきゃって思ってさ・・・もう時間ないしね…どうしようかなって思ってた」

ここは誰ん家?と聞きたい気持ちをゆっくり押さえ込みながら答える。

「間に合うのかよ?」
不機嫌100%で聡が聞き返す。
こんなことになった原因が何だったかなんて すっかり忘れた顔だ。

「無理だと思うけど 電話しなきゃいけないし 公衆電話どっかにある?」

「とりあえず レイコとか飲みてぇ~たばこもないしな…出ようぜ」
自分のクチャクチャ髪を撫でつけ 
ズボンの尻をポンポンと叩きホコリを落としながら聡が言う。

来た時と同じように鍵もかけないで 乱暴にドアを閉め外に出る。
眩しい…
一瞬目が開けられないくらい…
白黒の空間からいっきにカラーな世界に戻る。

思ったより遠い場所じゃなく 一本表の通りはよく知っている場所だった。

少し歩くと「喫茶 ポエム」と看板を掲げた喫茶店があるはずだ。
カランカランと入り口のベルを鳴らして 喫茶店の中へ

「レイコ 二つ」私が注文する。
{レイコとは冷えたコーヒーの事で当時はそんな風にもじって短くするのが カッコイイと思っていた}

真剣に読むはずもないスポーツ新聞を 
黙ったまま眺める聡…
店のおばちゃんがアイスコーヒーを運んでくる間中 
聡は新聞に目を落としたままだ…
クチャクチャな頭のてっぺんから
{何も聞くなってオーラ全開で…}

私は店内の公衆電話から店は電話を入れる。
一通りマスターから叱られ ガチャと受話器を置く瞬間まで 
お昼のランチタイムには間に合うように念をおされた。