「行こう…」そう呟いて 来た道を引き返す。

無言のまま歩き続け 鉄骨の古びた2階建てアパートの前にたどりついた時には 
下着までビッショリ濡れて 髪の毛は凍ってるんじゃないかと思うくらい冷たくなってしまって 
唯一聡とつないだ手だけにかすかな体温が残っているだけだった。

その部屋のドアには消えかかったように「202」と書かれていた。
{いったい誰の部屋なんだろう?こんなアパート来た事ないしなぁ~}と痺れる頭で考える。

聡はためらいもなく ドアノブを回す…ガッチャンと回りドアが開く。
かび臭い…
薄汚れた玄関…
真っ暗な室内…
靴を脱ぐのが躊躇われるような汚さ…
玄関を入ってすぐの部屋に聡が入る。

外灯からの微かな光で、カーテンもないその部屋の中が少しだけ見える。いったい何色なのかわからないような毛布がクチャクチャになってその下から触らなくてもわかるくらいペチャンコになった布団
倒れたままのゴミ箱…
裸電球…
磨り減ってささくれだった畳 
灰皿代わりの空き缶…
全てが薄汚れた部屋。


聡が、そのペチャンコの布団を持ち上げて 
パーンパーンと叩く ホコリが外灯の光を浴びてキラキラと舞い落ちる。

「寝ろよ…」言ったはなから聡が横になる。
気分が悪くなるほどのカビ臭さと身体と同じくらい湿気を含んだその布団に横になる勇気がない…
聡はすぐに寝息をたてはじめる。諦めと長時間歩いた疲れが私の背中を押して とうとう横になった。
鼻からの息をせず ひたすら目を瞑る…聡の背中の温もりだけを感じて。