新居の準備が整って、3月の終わり。


二人は 一緒に住み始めた。


結婚式は 都心のホテルで6月に行う。

これから しばらくは、結婚式の準備で 忙しくなるだろう。

新居に 住み始めた最初の日は、やっぱり嬉しくて。

二人とも はしゃいでしまう。


お互いの荷物を片付け、近くのスーパーに 一緒に買い物に行く。

いつも穏やかで 淡々としている佳宏が 嬉しそうな姿は 美咲を 幸せな気分にしてくれる。
 


早めに食べた夕食の後、佳宏の服を 整理しながら
 
「ねえ佳宏。これからはスーツとか もっと良い物買おうね。」

と美咲は言う。
 
「俺、センスないから 美咲選んでよ。」

佳宏は 嬉しそうに微笑む。
 

「うん。佳宏改造計画。佳宏は イケメンだから。髪型も、この辺を もう少し短くして 前髪を少し下げて ほら。」

そう言って 佳宏の髪に触れていた美咲。


ふと手を止めると 佳宏の胸に 抱き付いた。
 

「どうしたの?」

美咲の背中を 自然に抱きながら、佳宏は言う。
 

「だって。佳宏 カッコよくなって モテたらイヤだ。」

美咲が 頬を膨らますと
 
「大丈夫だよ、美咲だけだから。」

佳宏は 少し照れて言う。
 

「佳宏、優しいから。女の子が近付いて来たら、断れないもん。」

美咲は、自分の心の動きに 驚いていた。

誰かを 独占したいと思うことや、ヤキモチを妬いたことは 今まで 誰にもなかったから。
 

「馬鹿だな。断れるに決まっているでしょう。美咲 毎日 見張っていていいよ。」

美咲の頭を撫でる佳宏。

美咲は ふいに涙が滲んでくる。
 

「本当に?」

声を震わせて美咲が言うと、
 
「当たり前でしょう。それに俺、モテないから。大丈夫だよ。」

と佳宏は 満足気に微笑んだ。そして、
 


「泣いているの?美咲、可愛いな。」

と言って美咲を抱きしめた。


美咲は本気で泣きじゃくってしまう。


まるで高校生の女の子のように、自分の気持ちを 持て余して。

佳宏への愛しさが溢れて、
 


「佳宏がいけないんだよ。佳宏のせいだから。」

泣きながら美咲は言う。
 
「わかったから。ほら、大丈夫だから。もう泣かないの。」

佳宏は優しく美咲の髪を撫で続ける。
 


「佳宏、抱いて。」

美咲の甘えは、熱くなって 美咲の身体を包む。
 
「今すぐ?」

佳宏も 熱い愛で溢れる目を、美咲に向ける。
 


「今すぐ。ずっと抱いていて。」

佳宏は 美咲を抱き上げて、ベッドに運んだ。