今まで、美咲の心まで 考えてくれた人は いなかった。

美咲は 人前で泣いたことなんてないのに。


心が溢れ出し、涙が止められない。
 


佳宏は、ずっと美咲を見ていてくれた。

美咲が求めるまで、待っていてくれた。


それまでの 美咲の哀しみや葛藤が、全て 涙と一緒に溶けて流れていった。
 

食事をしながら 約束したとおり 佳宏は 胸で美咲を泣かせてくれた。

優しく 美咲の髪や背中を撫でて。

美咲の気が済むまで、じっと抱いていてくれた。
 


やっと泣き止んだ美咲は、顔を上げて 佳宏の唇を塞ぐ。

佳宏への 甘い感謝が美咲を動かして 止めることができない。
 

「わがままな お姫様だなあ。」

佳宏は 温かい笑顔で 美咲に応えてくれる。
 
「だって。こんな気持ち、初めてなんだもん。」

照れて 恥ずかしそうに 美咲が言うと、
 


「いいよ。俺の前では 何も我慢しないで。いつも わがままでいいんだよ。」

と佳宏は言って、美咲を強く抱きしめる。



佳宏も、美咲の心をつかんだ喜びに 包まれていた。