美咲より 2年先輩の佳宏は、いつも笑顔で 穏やかな性格だった。

営業マンらしい ガツガツした所がなく 少し 物足りない感じを与える。

だから あまり存在感がなかった。
 

その日以来 気になって、美咲は 佳宏を見てしまう。

佳宏は身長も高いし、顔立ちも整っている。


でも 服装は普通のスーツで、着こなしも おしゃれではない。

控えめで、なんとなく地味な印象だった。

だから今まで 美咲は、佳宏に関心を持たなかった。
 


それから佳宏も、今までよりも 打ち解けて 美咲に話しかけてくる。

笑うと、目尻に優しそうな皺が寄って、美咲を温かい気持ちにした。
 


「本城さんて彼氏いるの?」

いつもより 早めに戻った佳宏に、美咲がお茶を淹れると、

佳宏は『ありがとう』と受け取った後で そっと聞いた。
 


「いたら 今、独りでいませんよねぇ。」

美咲が苦笑する。
 
「そうだよねぇ。」

と佳宏も、茶化して笑った。


美咲の心が コトンと鳴った。

心を 何かにノックされた音。


戸惑って俯く美咲に、
 
「今夜、飯でも行こうか、一緒に。」

と佳宏は言う。


美咲は 少し頬を染めて、頷いた。