それから 聡は、時々上京して 美咲と過ごした。

たまに会う時間は、やっぱり楽しくて。

美咲も聡も それで十分だった。



年々 時間は早く過ぎる。


美咲は 聡に返事ができないまま、1年以上の日が経った。
 

30才の誕生日が過ぎた美咲は、週末 上京した聡に 気持ちを告げた。
 

「私、やっぱり横山君と 結婚はできない。」


美咲の誕生日だからと 聡は 贅沢な食事をご馳走してくれた。


食事を終えて 美咲のアパートに戻って、美咲は聡に言う。


「うん。わかっていたよ。美咲、東京で輝いていて。今の生活、捨てられないよな。」

聡の言葉に、美咲は 寂しく微笑んだ。
 


「私が はっきりしないと、横山君も 前に進めないよね。」

言いながら美咲は さらに寂しくなる。

時々 聡と会うことは 美咲にとっても 楽しみになっていたから。
 


「そういうこと 言うなよ。俺が 美咲に会いたいんだよ。美咲が 近くに住んでいれば、もっと会えるから。でもそれって 俺の勝手だよな。」

聡は美咲を責めない。
 
「ううん。私のわがままだから。」

美咲は切なくなる。
 

「逆なら、俺も決心できないよ。俺が 東京に来てって言われたら。だから、気にするなよ 美咲。」

聡は そっと美咲の肩を抱いた。
 

「ありがとう。だから もし横山君に 好きな人ができたら 私に遠慮しないで 結婚していいからね。」

美咲も そっと聡の胸に 顔を埋めた。
 


「寂しいこと、言うなよ。美咲、昔もそんな事言ったよな。そういう奴、いないよ。」

聡は 美咲の髪を優しく撫でる。
 
「私、横山君とこうしている時間 すごく好きだよ。でも横山君を 縛ってしまったら申し訳ないから。」

聡の胸で美咲が言うと、
 

「俺が 美咲に会いたくて、会いに来るんだから いいだろう。」

聡は 美咲の頭を抱いた。