麻有子が言う 運命の人は聡かも、と美咲は 甘い期待をしていた。

でも聡に会うと、懐かしさ以外の感情は 湧いてこない。


美咲は 聡を綺麗な思い出として、消化できていたから。
 

少しのお酒と美味しい料理。

地元の同級生の近況を話しながら、二人はゆっくり食事をした。
 

「横山君、今夜どこに泊まるの?」

店を出て美咲が聞く。

聡は 駅近くのホテルの名前を言った。
 


「美咲、一緒に来いよ。」

聡は 美咲の手を握って言う。

美咲が軽く首を傾げると
 

「ね。」と言って、聡は 美咲の顔を覗き込んだ。


美咲は苦笑して 頷いてしまう。

『まあいいか。もう大人だし。』

クスッと笑う美咲に
 

「なんだよ。」

と聡が聞く。
 


「ううん。横山君には 敵わないな、と思って。」

美咲が言うと、聡も笑顔になった。
 


聡との時間は、自然体で気取らなくて。

いつの間にか 言葉のイントネーションが 方言に戻ってしまう。


美咲の心は 穏やかに寛ぎながら、ほんの少しドキドキしていた。