でも美咲は、麻有子のように 湧き上がる思いを達也に持っていない。

こんな気持ちのまま、達也と一生生活できるのか。


「美咲次第だから。こんなこと 私が言うのもなんだけど。本当に好きな人と 一緒にいるって 幸せが違うよ。」


悩んでいる美咲に 麻有子がそっと言う。

結婚後も 仕事を続けていた麻有子。


妊娠して 退職する直前のことだった。
 

「迷っている時点で、答えは 出ているんだよね。でも、本当にそれでいいのか。今を逃したら もう結婚するチャンス 無くなるかもしれないし。」

美咲が言うと、
 
「子供ができて 余計に思うの。智くんの子供だから、もう愛しいの。もし違う人の子供だったら こんな風に思えないわ。」

と麻有子は、少し目立ち始めた お腹を撫でる。
 


「でも、麻有子みたいに 運命の人に出会える?一生出会えなかったら どうしよう。」

美咲は 泣き笑いのような顔になる。
 
「そうよね。運命の人を待つか。妥協して結婚するか。」

と麻有子は笑う。
 


「ちょっと、麻有子。そんな意地悪言うと 胎教に悪いわよ。」

美咲は 頬を膨らました。
 
「ごめんね。」

と笑った後で麻有子は、
 

「案外近くにいたりして。運命の人って。お互い、気付かないだけで。タイミングだから。」

と意味深なことを言った。
 


結局、美咲は 達也に付いて行けなかった。

達也との結婚生活を どうしても想像できなかった。



そんな気持ちで結婚することはできない。


まだ美咲は、王子様を待っていたのかもしれない。