「ねえ、美奈ちゃん。サムシングフォーって知っている?何か古い物。何か新しい物。何か借りた物。何か青い物。結婚式に、それを身に付けると幸せになるっていう。」

麻有子の言葉に 美奈子は頷き、
 

「マザーグースのおまじないだよね。私、靴を買おうと思って。和哉、お兄さんより 背が低いから。お姉ちゃんの靴だと ヒールが高すぎるの。」

と美奈子は言う。
 

「じゃ、ブーケに青を入れて。ママ。何か古い物、ない?」

麻有子は母に聞く。

そういう話しを している姉は、少女のようだった。
 


「古い物だらけよ、うちは。」と笑う母。
 
「だから。違うって。結婚式で 身に付けられる物よ。もう。」

麻有子は 困った顔で言う。

みんな、声を出して笑ってしまう。


「あっ。あるある。お祖母ちゃんから もらった真珠のブローチがあるわ。」

と母は、奥の部屋に行く。

そして、ビロードの箱を持って来た。


麻有子も美奈子も、初めて見る箱。
 
「わあ。素敵じゃない。」

麻有子が言う。
 
「うん。ママ、一回もしたことないよね。」

美奈子も驚いて聞く。
 


「私が お嫁に来る時、お祖母ちゃんが 買ってくれたの。でもする時がなくて。」

と言って 母は父を見る。
 

「そういうの 付けるような所に 連れて行かなくて。悪かったね。」

と父が言って、またみんなで笑う。
 


「ママ、貸して。」

と麻有子は 箱からブローチを取りだし、美奈子の胸に付ける。


シルバーの台に、花の形で 真珠をあしらったブローチは、豪華なドレスの ビーズ刺繍とよく似合った。
 

「いい。いい。ぴったりよ。」

麻有子の言葉に 母が頷く。