「お父さん、麻有ちゃんの願いを 叶えさせて下さい。俺と麻有ちゃんが建てた家で、和君と美奈ちゃんが、お父さん達と暮らしてくれるっていう。」

智之の謙虚な言葉に、
 

「私、親になって、やっとパパとママの気持ちが 少しわかってきたから。私が絵里ちゃん達 大切に思っているみたいに パパとママも 私達のこと 大事にしてくれたんだよね。」


麻有子は しゃくり上げながら 途切れ途切れに言う。
 


「麻有子がそう思っていたら、それでもう十分、親孝行だよ。」

と父が言うと、

「パパ。」

と言って、麻有子は手で顔を覆った。


智之は そっと麻有子の肩を叩いて
 

「麻有ちゃんが こんなに思っているから。麻有ちゃんの気が済むように。お父さん、お願いします。」

と父に頭を下げる。
 

「お願いします、は俺達だろう。ママ、俺達は幸せ者だな。」


と父は声を詰まらせ 母はエプロンで涙を拭く。
 

「私も。お兄さん、お姉ちゃん。本当にありがとう。」


美奈子の頬も涙が伝う。

麻有子は 顔を伏せたまま、首を振る。
 

「麻有ちゃん、泣き虫だから。」

と言って、麻有子の背中を 優しく撫でる智之。


優雅で美しい兄と姉は、何故、こんなに優しいのだろうと思いながら、美奈子は二人を見ていた。