みんなの心に、温かな感動が広がり、部屋中が 優しい空気に包まれる。
 

「違うんです。一生に一度だから。だからお父様と歩かないと 私、後悔します。お父様、いつも私にまで 優しくしてくれて。お姉ちゃんの妹っていうだけなのに。お姉ちゃんと同じように 可愛がってくれて。私、本当に感謝しているから。お父様のこと、東京のお父さんだと 思っているから。大好きだから。だから お父様から、私を和哉に 渡してほしいんです。」


美奈子は 言いながら 徐々に感情が昂ぶって、涙が溢れてしまう。

途切れ途切れに 言う美奈子。

お父様の目も 少し潤んでくる。
 

「美奈子のお父さんにも、許可を もらっています。どうか、お願いします。」

美奈子に 続けて和哉が言い、二人で頭を下げる。

麻有子が そっと顔を覆うのを、和哉は 目の端で捉えた。
 

「本当にいいの、美奈ちゃん。」

念を押すお父様に、美奈子は大きく頷き、
 
「はい。宜しくお願いします。」

と和哉は頭を下げる。
 


「お母さん、俺の夢が叶うね。」

とお父様は言って、お母様と頷きあった。
 

お父様の 謙虚な言葉に 美奈子はまた涙を流す。

偉大で立派な人なのに。

お父様の夢を 美奈子が叶えるなんて。


「お父さん、これから行進の特訓だよ。」

湿った空気を変えるように、お兄様が 明るく言う。


リビングに 明るい笑顔が戻って、美奈子は和哉と微笑み合った。