「恥ずかしいな。」


美奈子の頭を 抱き寄せる和哉。

不意に涙が溢れて、美奈子の頬を濡らす。
 

「何だよ。泣くなよ。」

初めて 美奈子の涙を見た和哉は、珍しく狼狽えて言う。


何故、涙が出たのか、自分でも わからない美奈子。


何も言えずに、そっと首を振る。
 


「ごめん。早く言えなくて。でも、これからが長いからさ。美奈子、よろしくな。」

美奈子の頭を 甘く叩く和哉。
 


誰かを 愛するって こういう気持ちなのか。


自分以上に 大切な人。

和哉の 喜ぶ顔が嬉しいとか、和哉の体調を 気使うとか。


そして和哉と一緒にいると、いつも安心で。


自分に、こんな日が来ると 美奈子は思わなかった。
 


「指輪、買わないとね。」

和哉は 美奈子の頭を抱いたまま言う。
 
「お給料の3カ月分だよ。」

美奈子が 顔を上げて言うと、
 


「なんだよ。泣いていたくせに。」

と和哉は 美奈子を睨む。

美奈子も フッと笑って和哉を見つめる。


これから 二人で生きていく実感に 震えながら。