和哉は普段、あまり取り乱すことがない。

小さなことに拘らない、和哉の 大らかさが 美奈子は大好きだった。


でも 美奈子の両親を前にして、初々しい緊張を見せる和哉。

美奈子の心に、甘い満足感が充ちてくる。
 


「いいえ。僕の方こそ。頼りないかと思いますが。どうぞ宜しくお願いします。」

そう言って、和哉は もう一度頭を下げた。
 

「美奈ちゃん、良い人と出会えて よかったじゃない。」

横から母が言う。
 
「やめてよ、ママ。照れるじゃない。」

美奈子は顔を赤くする。
 


「うちは、いつもこんな感じだから。和哉君、いつでも寄ってよ。」

と父が言うと、和哉は 嬉しそうな笑顔で
 
「はい。ありがとうございます。」と言う。
 

「夕ご飯、食べにいらっしゃいよ。美奈ちゃん、お料理できないから。」

と母も微笑む。
 
「いえ。そんなことないです。色々、作ってくれますよ。」

真剣に否定する和哉を、父と母は 笑って見ている。
 


「できる訳ないよ。ちっとも 家でやらないんだから。」

と手を振る父。
 
「失礼ね。和哉が いいって言っているんだからいいの。」

美奈子が 頬を膨らますと、三人は 顔を見合わせて笑う。
 


「和哉君、美奈子の尻に敷かれているね。」

と言う父に、
 
「それが嬉しいので。」

と和哉は 照れた顔で 美奈子を見る。
 


「ちょっと。そこは否定する所だよ。」

と拗ねる美奈子。

家族以外の人に 大切にされるときめきに、美奈子は 胸を熱くする。
 


ずっと 両親と生活してきて、いつも 美奈子は両親に庇護されていた。

これから 両親の代わりに、美奈子を 守ってくれる人と めぐり会えた幸せ。
 


麻有子のように 特別な生活はできないけれど。

いつも、気張らない 自然なままの 美奈子を受け入れ、愛されて生きていく。

これ以上の幸せはないと、美奈子は思っていた。