「へえ。東京って遠いの。」

驚いて聞く美奈子に、
 
「そんなには 遠くないよ。」

麻有子は 勉強の手を止めて 美奈子の方を見る。
 

「でもさ 東京の大学に行ったら 東京に 住むんでしょう。」

麻有子が 遠くに行ってしまうことが、美奈子は寂しかった。
 
「それはそうだけど。美奈ちゃんも 頑張って 東京の大学に行こうよ。」

麻有子は 笑顔で 美奈子に言う。
 


「私は 軽井沢にいるよ。二人で 東京に行ったら、パパとママ 寂しいでしょう。」

美奈子は、両親を心配するような 言い方をしたけれど。

本当は 麻有子のように 勉強することが嫌だった。


麻有子は驚いた顔で美奈子を見て、

「そうだね。美奈ちゃん、親孝行だね。パパとママのこと 美奈ちゃん 頼むね。」

と優しく言った。
 


「うん、任せて。私 ずっと家で パパとママの 側にいるから。」

美奈子は 得意気に答えた。
 


その言葉通り、美奈子は ずっと両親と暮らしている。

勉強から 逃げる為に言った 子供の戯言だったのに。


まさか 結婚した後も 両親と一緒に 生活するなんて。



その時の美奈子は、思いもしなかった。