恋が始まるときに 理由なんてない。

一歩踏み出す勇気と、求め合うタイミング。


それを 縁 と呼ぶ人もいる。


美奈子は、和哉と 縁があったのだと思う。
 


その夜、家に着いた頃を見計らって 和哉から電話が入った。
 

《もしもし。さっきの小島です。出てくれて良かった》


美奈子は 和哉の携帯番号を聞いていなかった。

登録していない番号の着信。

いつもの美奈子なら 出ないけれど。
 


《多分、小島先生だと思って。どうもご馳走様でした》


成り行きで、美奈子達の分も 支払してくれた和哉達。

美奈子は明るく言う。
 

《いいえ。逆に、邪魔しちゃって。図々しかったかなって。今、反省しています》

和哉の温かい人柄と、一生懸命な性格が 窺える言葉に、美奈子は 一人で頬を染めた。

《邪魔だなんて。すごく楽しかったです》美奈子が素直に答えると、

《そう言ってもらえて 安心しました。美奈子先生、今度は 二人で食事しませんか?》


和哉は 怖々と聞いて来る。

美奈子は、そんな和哉の姿を想像して、一人微笑む。


《私で良ければ。喜んで》

美奈子の胸も、驚くほどドキドキしていた。
 

《やった。美奈子先生、いつが空いていますか》

せっかちに聞く和哉に、

《私はいつでも大丈夫ですよ。小島先生が 都合のいい時で》

美奈子は控えめに答える。



《明日とかは?》

と言う和哉に、美奈子は ケラケラ笑ってしまう。

《急ですね。小島先生、部活は大丈夫ですか》

和哉は 柔道部の顧問をしていると、さっき聞いたから。

美奈子が聞くと、

《今、試験前で、部活休みだから》

と和哉は嬉しそうに答えた。


美奈子も つい笑ってしまうような、屈託ない声。



《そうか。中間テストですね》

中学生の頃を思い出して、美奈子は言う。
 
《はい。なので、一緒にお昼を食べて、ゆっくり話しましょう》

和哉の言葉に、美奈子は 胸をときめかせていた。